トラブル対応(ヤクザ)1
今まで行ってきた苦情対応の件数は、客席でお詫び申し上げお許しをいただいたものから、警察や弁護士に相談し、上長とともに対応したものまで含めると少なくとも1000件以上あります。ですので、これらについて話をすると相当な時間を必要としてしまいます。
今回はそのうちの1つ、苦情からトラブルに変わった事例で、反社の方から初めて「殺すぞ」と脅されたときのトラブルについてお話をいたします。
その筋の方とわかるお客様が2人いらっしゃいました。40代と20代といったところだと思います。何事もなく時間が経過していましたが、若いほうの方が出て行かれ、しばらくして戻ってこられました。そして会計をし、お二人とも店を出て行かれました。それから2~3時間経った頃だと思います。そのお客様から電話があり、代金が多く取られていると言う苦情をいただきました。テーブルを担当したものに確認すると、ハンディーターミナルの入力のミスにより、360円多くいただいていることが判明しました。その方にすぐにお詫びしましたが、お詫びの言葉も終わらないうちに「ふざけるな。財布を忘れたからわざわざ事務所まで金を取りに行かせたんだ。どうしてくれるんだ」と言う言葉をいただいてしまいました。それ以降の言葉は、苦情ではなくトラブルと判断せざるを得ない内容でした。数分間脅されていたと思いますが、何とか代金をお返しするための場所を教えていただきました。
そしてその指定されたところに行ったのですが、そこは今はもう見かけなくなりましたが、ローンズ〇〇と言う、いわゆる闇金の店舗でした。受付の女性に話を伝えると、奥の部屋に通されました。かなり広い部屋で、6人の男性がソファーに座っていて、そのうちの1人が来店された40代の男性でした。皆さん揃ってその筋の方とわかる風貌で、また部屋の雰囲気もあり、まるでドラマのワンシーンのようだったのを覚えています。
部屋に案内されると、6人の男性に囲まれるように部屋の真ん中に立たされました。40代の男性から土下座しろと言われ、その場に土下座しました。それから電話口で脅されたこととほぼ同じ内容で、わざわざ取りに行かせたとか、忙しいのにこんな時間取らせやがって、メンツを潰された、誠意を見せろ、この世界では指詰めないといけないなぁ、ぶっ殺すぞてめえなどなど、ありとあらゆる言葉で攻め立てられたように思います。6人の男に囲まれる威圧感も半端ではありません。ここまで脅されたのは初めてで、とても怖かったのを覚えています。
しかしあらかじめ上長と相談し、上長から言われたのは「決して金を出すな」、「360円だけ置いて帰ってこい」でしたので、どれくらい脅されていたかあまり覚えていませんが、お詫びだけしていたように思います。ただ誠意を見せろと言われた時、「ここにお詫びに参り、そして360円お返しすることが私の精一杯の誠意です」とお伝えたのを覚えています。
そしてしばらくの間、10秒から20秒位でしょうか沈黙が流れました。土下座しながらうつむいていると、いきなり肩をポンと叩かれ「兄ちゃん、もういいよ。顔を上げな」と言われ、ゆっくり顔を上げると、「よく1人で来たな、立っていいぞ」ということでした。
帰っていいと言うことなので、もう一度一礼してからドアに向かおうとすると、先程の40代の男性が私の肩に手を回しながら「ご苦労さんだったな。頑張れよ」と言ってきました。私は「はい」とだけ言って一礼し、その店を後にしました。
私は今までに「殺すぞてめえ」と言って脅されたのは4~5回あると思いますが、この時が最初のものだと記憶しています。この時は本当に殺されるかもしれないと思う瞬間があり、生きた心地がしませんでしたが、無事に五体満足で出られたこと、達成感などで本当にホッとしたのを覚えています。