出来事エピソード7

トラブル対応(ヤクザ)2

 このトラブルは接客員の態度が悪い、いわゆるサービスコンプレが発端でした。その当時、喫煙席と禁煙席でダイニングを分けており、そのヤクザのお客様は禁煙席に着かれていました。その時の接客員は男子大学生のクルーさんだったのですが、お客様に「灰皿を持って来い」と言われたので、「ここでは吸えません、移動してください」と伝えたそうです。お客様はその言い方が気に入らないと言うことで、苦情になったということです。確かに言い方に棘があったようでした。

 私は帰宅してすでに就寝していたのですが、夜中の2時過ぎに電話がかかってきました。その時担当していたお店は24時間営業で、その男子大学生が深夜を担当していました。嫌な予感はしていたのですが、電話に出るとやはりその大学生のクルーさんからで、「ヤクザに怒鳴られている、ただいま直ちに店長を出せ」と脅されていると言う内容でした。その大学生は狼狽しており、会話もあまり文章になっていませんでしたので、すぐにそのヤクザのお客様と電話を代わるように伝えました。私が電話にて話をしたのですが、大声で怒鳴り散らしたりして話になりません。

 令和の現在でしたら、怒鳴るなどの行為を受けた瞬間に110番が当たり前なのですが、平成初期では、そんな考えが出てきませんでした。苦情といえばヤクザとのトラブルがほとんどの時代で、私が大学生でアルバイトをしていたときも、ヤクザに絡まれましたし、また絡まれているのも随分と見てきました。

 「すぐに来ないとこいつどうなるかわからんで」などと言われたので、とにかくそれだけは避けなければならないと、急いでお店に向かいました。向かう道すがら、緊張で胃が痛くなったのを覚えています。

 夜中でも、お店まで車で1時間はかかるので、お店に着いた時は4時になっていたと思います。店に着くと、その大学生のクルーさんは、私の姿を見るなり駆け寄ってきて、そのヤクザのお客様を私に伝えます。まず、とにかく「本当にご苦労様でした。あとは私が対応するから大丈夫」と伝えました。私が到着するまで、コックさんも一緒になって対応してくれていました。本当にありがたかったです。

 他のお客様はその険悪な雰囲気から、既に全員帰られていましたので、お店にはそのヤクザさん1人だけです。すぐにお客様のテーブルに伺いましたが、私を見るなり10メートル以上前から「お前が店長か、舐めやがってこのやろう」と、大声で怒鳴り始めました。その次の言葉はやはり「ぶっ殺すぞてめえ」でした。お酒もかなり入っているようで顔は真っ赤です。それから延々と「あいつ(大学生のクルーさんのことです)の態度が悪い」、「客を舐めるな」、「どんな教育している」など、怒鳴りながら同じ内容を、エンドレステープのように繰り返していました。やっと落ち着いたのは2時間位経った後でした。外も夜明けで白み始めていて、本人も多分少し眠くなってきたからだと思います。

 ここら辺で幕を引こうかと考えましたが、残念なことにそうはなりませんでした。やはり始まりました。いわゆる「誠意を見せろ」攻撃です。私の一存ではお金は一切出せないこと、また本日のお代金はいただかないこと、ここでこうしてお詫び申し上げることが私の精一杯の誠意だと言うことをお伝えしましたが、当然納得しません。結局会社にこの件を報告し、改めて連絡差し上げるということで、この日は何とか引き取っていただきました。多分7時は過ぎていたと思います。

 そしてその日、会社が始業してすぐに上長にこの件を報告しました。お客様より、私では納得できないので上が謝罪しろと言われていること、金銭目的であるトラブルということも当然報告しました。その結果、私と私の上司の2人で改めてお詫びに伺うこととなったのでした。

 お会いする場所は、そのヤクザのお客様のマンションのそばのファミレスです。しかし待ち合わせ時間になってもお客様はいらっしゃいません。30分過ぎたので電話をすると、今行くと言われましたが、結局いらしたのはさらに30分後、約束より1時間経過してからでした。そして遅くなってすまないなどお詫びの一言も無く、入ってくるなり「オタクね・・」から、例の調子で始まりました。

 今回のターゲットは私でなく私の上司です。やはり2時間くらい雄弁に語っていました。いや怒鳴っていました。今回は横に座って聞いているので、かなり客観的に見ることができます。よしよしとなだめすかしてホッとさせたかと思うと、急に怒り始めるなど、彼らの人を脅すテクニックはやはりプロでした。あまりの激しさに上長は席を外し、更にその上の上長と、電話でやり取りをしていたほどです。しかしあくまでお金は一切出さない、これ以上続くようであれば警察に相談する、法的な事は会社の顧問弁護士と対応する、と言うことを伝えると、今回は無理と諦めたのでしょう。やっと、ようやく、ついに手打ちとなりました。ヤクザさんからの最後の一言「兄ちゃん、頑張れよ」は、やはりいつもと同じフレーズでした。

 思い出すたびに、妥協して慰謝料などと言う名目でお金を出さなくてよかったと、つくづく思います。これ以降はこの方とは縁が切れましたから。

 ちなみにヤクザさんがこの店に入ってきたとき、「〇〇さんいらっしゃいませ」とこのファミレスの従業員が言っていました。ヤクザさんはこのファミレスをベースとしていたのでしょう。このお店ではとても良いお客さんになっており、そしてこのお店のダイニングを舞台に、他のお店を恐喝のターゲットとして、いちゃもんを付け、ゆすっていたのだと思います。