スキルエピソード2

価値観を共有すること2

 私が学生さんを採用するときに条件としていることは、サービス業は土日が忙しいので、1ヵ月間に8回ある土日曜日のうち半分は出勤してもらいたいと言うものでした。またどうしても出勤できないときには理由を直接お話ししてくださいとも伝えていました。

 毎月18日に翌月1か月分の出勤希望を提出していただいています。ある大学生の男の子が翌日のスケジュールを提出してきたのですが、そのスケジュールには土日が1日も出勤になっていません。また理由の説明もありません。私はハウスルールの中でもワークスケジュールのルールが1番重要だと考えており、お店でもそのルールを徹底してきたつもりだったのですが、あっさり破られてしまいました。しかし彼もルールを知らないわけではないので、ルール違反を指摘する前に理由を聞いてみることにしました。

 その理由を聞いてみると、彼はハンドボール部に所属していて、この春のリーグ戦でレギュラーを取れるかどうかが決まるということ。週末に試合があるので、そのためにどうしても試合に出たいということでした。彼の話しぶりから真剣さが伝わってきて、一生懸命取り組んでいるということが理解できたので、リーグ戦が終わるまで土日は全部休みでいい、何なら平日も休み、全休でいいよ。その代わり絶対にレギュラーを取るんだよ、と伝えました。

 それから2か月くらい経ったと思いますが、休んでいた彼がランチのピークタイムにいきなり来店しました。そこそこ「KY」なやつだったので、急にこの時間帯に話があると言ってきてもさほど違和感はありませんでしたが、追われている中手を止めて話を聞いてみると、なんとレギュラーを取れたということでした。客席でハイタッチをしてしまいました!

本当にうれしかったのを覚えています。

 それからしばらくして、ある平日のランチタイムどうしても人員が揃わなかったために、皆に出勤交渉していて彼にもその話をしたところ、その日は休校になったのでランチ出られますとすぐに返事がありました。その後も彼には何度か不足しているところを出勤していただきました。しかしある時、彼が授業をサボって不足してる時間帯に出勤しているのではないかと言うことを、他のアルバイトさんから聞いたので、そのことを本人に確認してみるとなんと噂は本当でした。彼は恩返ししたかったと言っていました。私は彼に対する感謝の気持ちでいっぱいになり目頭が熱くなりましたが、「本当にどうもありがとう、でもあなたの本分はあくまで学業だからバイトはその次です。今後はこの優先順位を守りつつ協力お願いします」とお伝えしました。

 よく相手の身になってと言いますが、それはできるなら一緒に取り組んであげることだと思います。でも立場も違うのでなかなかそうはなりません。それなら店長と言う立場において、その人が1番大切だと思っていることに取り組める環境を作ってあげることが1番大切なことだと思います。         

 ちなみに彼は第1志望だった教員となり、お店を巣立っていきました。