お店の歴史をリスペクトするということ
あの店長が担当するお店はいつも人がいなくなる、という話を少なからず耳にすると思います。
あの店長とはやってられないとクルーさんが辞めていく場合が多いからなのですが、これは店長がクルーさんの声に耳を傾けず、自分の考えをクルーさんに押し付け、強制的にやらせようとした結果なのではないでしょうか。確かに店長は 5年10年20年と経験を積み、知識も充足しているので、このケースの場合はこうした方が良い、こうすれば結果はこうなるなど、いわゆる方程式を持っています。ですから、クルーさんの行動を自分の方程式に当てはめようとするのです。そして当てはまっていないと、それは違うこうだと指示命令に走りがちになってしまいます。
これをクルーさんの立場から考えてみましょう。今まで、それも何年もこのやり方で営業してきたのに、いきなりそれは違うからこうしてと言われたら、どんな気持ちになるでしょうか。今まで自分が一生懸命取り組んできたことを否定されたように感じませんか。その時のクルーさんの気持ちは多分こうだと思います。「何なの?あの人」。
私は若い店長に新しいお店に転勤したら、最初の1週間は何も言わずに、ただオペレーションを見ていなさいと伝えています。なぜそうするのか、ここではクルーさんとのコミュニケーションをメインにお話ししていきます。
ある店長が新しいお店に転勤してきたのですが、その転勤した日のうちにテイクアウト容器(お持ち帰りの容器ですね)の保管場所を変えるように、その店のクルーさんに指示を出しました。その店のクルーさんは突然の指示に戸惑いながらも、今までこれでやってきたと言うことを店長に伝え、その日はそれで終わったのですが、翌日そのクルーさんが出勤すると、テイクアウト容器の保管場所が変わっていました。なぜ変えたのか店長に聞くと、この方がオペレーションしやすいからとの答えでした。本当にその方が使いやすくなったかどうかは別として、それ以降この店は人揃えに苦労するようになっていきました。既存のクルーさんの退職が増えていったからです。ただテイクアウト容器の保管場所を変えただけのことでです。
ではどうすればよかったのか。結論から言うと、「そのお店の歴史をリスペクト」すればよかったと言うことです。たとえテイクアウト容器の保管場所を変更したいと思っても、まずはそのままにしておく。何故かと言えば、そこにテイクアウト容器があるのを前提にオペレーションが組み立てられ、さらに何年もの間、そのオペレーションで営業してきたと言う「お店の歴史」があるからです。そこには今まで頑張ってきたと言う、クルーさんの自負も当然含まれています。
そして場所を変えたいのであればそののちに、人間関係ができてきたらオペレーションの変更等の話もして良いのですが、この時にあっても、いきなりテイクアウト容器の保管場所を変更してくださいと言う言い方ではなく、まずはテイクアウト容器はどうしてそこに保管しているのですか?というような聞き方がよろしいかと思います。要するにまず店長が、相手の気持ち考え方を理解する努力をしなければいけません。それから店長の考えをクルーさんに伝えると、クルーさんも店長が自分の考えを聞いてくれたと感じた分だけ、店長の考えを受け入れようとしてくれます。これは人間の心理です。
また人間関係が構築されてくれば、何か伝えたいことも1週間も待つ必要は全くありません。リスペクトを基盤としてコミュニケーションを取っていけば、お互いに納得した上で、より良い方向にオペレーションを変えていくことができるからです。クルーさんと和合できている状態になったら、退職する方は極端に減ってきますから、後は新規採用で人員を増やしていくだけです。